商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

アメリカ産コーン単収の考察

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こんばんわ。白戸則道です。

昨日はアメリカのメモリアルデーでシカゴはお休みでした。この土日月の三連休で作付もさらに進んだことでしょう。いよいよ、作柄予測が市場参加者の主な懸念事項になってくる時期です。本日はコーンの単収予測について考察します。

 

単収て何?

コーンに限らず農産物の生産量予想をする際には、二つのパラメーターで計算します。

  • 収穫面積
  • 単位面積あたりの収穫量(=単収)

収穫面積は作付面積をベースに算出

毎年一定程度は生育不良で収穫せずにそのまま放置される、あるいは牧草用に使用される畑が出てきますので、これを係数をかけて算出するということですね。ですが、基本的には作付が完了したらほとんどの畑は収穫されることになりますので、作付が順調に進めば市場関係者の興味の対象は単収の予測に移ります。

単収予想は難しい

当たり前ですが、植ったばかりの畑の作物を見ても3−4ヶ月先の生育状況を精緻に予想することは不可能です。どれだけ雨が降るかもわかりません。なので、アメリカ農務省もある程度はヤマカンで数字を作っています。 

アメリカ農務省の5月の発表値は史上最高

ヤマカンの数字ではあるのですが、市場参加者からすれば一応その数字をもとに取れ高を見積もって先物契約を取引することにせざるをえません。

毎年5月に同年の生産量予想が初公開されますが、今年は史上最高の単収となる1エーカーあたり179.5ブッシェルをもとに計算しています。5月のアメリカ農務省レポートの内容については以下記事を参考にされてください。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

傾向単収という考え方

過去の単収の記録をもとに近似線を引いてみるという考え方が出来ます。以下は1988年を開始年として、2020年までの記録をもとに直線近似の線を引いてみます。これを傾向単収と呼びます。

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コーン単収(1988年から2020年)

中学生の頃に習った一次関数の式ですね。xが1増えればyは2.1282増えるという式です。つまり一年ごとに単収が2.1282ブッシェル増えるという式です。これに当てはめて計算すると、2021年度は178.4ブッシェル/エーカーとなります。

アメリカ農務省の計算はもう少しいろんなパラメーターの調整をしていたりしますし、またいつからいつで近似直線を引くかにもよるので一概には言えませんが、現時点の179.5ブッシェルというのはそれほど無茶苦茶な数字というわけではないと言えます。

 

傾向単収からの乖離

過去の実績を見て傾向単収と実績値の乖離幅の分布を見てみると、過去33年で、−36.2から18.1の範囲となっています。これを度数分布で示すと以下のチャートとなります。

過去33年のうちの19年は−2.4から+7.9の範囲に収まっています。33年のうちの19年ですから、58%相当です。半分以上はこの範囲に収まるということですね。

今年の傾向単収の値178.4ブッシェル/エーカーをベースに考えると、実績として58%の確率で176から186.3という範囲に収まると言えます。

 

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過去33年の単収ズレ度数分布

 

単収176から186.3でシミュレーション

単収が176から186.3に収まるとした場合にどの程度の期末在庫率になるのかをシミュレーションすると以下の計算になります。アメリカ農務省の5月発表値をベースに単収だけを変更した形です。実際は価格が変動するので需要も相応に変わるはずですが、簡単のために単収だけを変更しています。

単収176であれば、期末在庫率は8.22%、単収186.3であれば期末在庫率は14.04%となります。

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アメリカコーン需給バランス表

期末在庫率が14%ならばコーンは三ドル台の筈

期末在庫率とシカゴコーンの関係をプロットしたチャートからみると期末在庫率14%であればコーンは四ドルは超えず三ドル台で推移する可能性があります。

そして期末在庫率が8%超えであればこれも5ドル半ば程度が妥当な水準ということになりそうです。

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コーン期末在庫率と価格の関係

 

今の価格は高すぎるのか

現在のシカゴコーンの水準は足元は6ドル50セントを超えていますが、新穀年度については5ドル70セント程度です。期末在庫率の計算からすると少し高いなというのが正直なところかと思います。

投機筋のロングが入っていることで、値位置が切り上がっているのだと解釈することもできるのかもしれません。そして投機筋はどこかのタイミングでは売り外しに来ますので、そのタイミングではあるべき値位置に戻ってくるということなのかもしれません。

輸出需要の見通しは要注意

一方で少し要注意なのは、アメリカ農務省の輸出需要の見立てが甘い、という可能性はあります。これがもっと上方修正されると、期末在庫の水準も変わってきますので、これはもう少し情勢を見ながら検討する余地はありそうです。

輸出成約は史上最高のペースで進んでいます。今後さらに買い付けが入ってくる可能性もありそうです。今年のアメリカ産コーンの買い付けペースについては以下記事にまとめておりますので参考にしてみてください。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

ではでは。今週も一週間がんばりましょう。

 

ファンドマネーの動向 2021/5/25 

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こんにちわ。白戸則道です。

先週金曜日の午後にCOTレポートが発表されました。内容についてみていこうと思います。

COTレポートとはなんぞや?

Commitment Of Traders(コミットメントオブトレーダーズ)というレポートで、市場参加者のポジションについて公開するものです。政府による取り決めで大口投資家は取引の状況を報告する義務があり、これに基づき、毎週火曜日終了時点のポジションを金曜の午後に、政府が公開しています。

なぜ、アメリカ政府がそのようなことをしているのかという説明を以下記事に記載しておりますので、参考にされてみてください。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

シカゴコーンは5月25日にストップ安

先週のシカゴコーンの値動きは荒い展開でした。特にきっかけとなったのは、5月25日のストップ安をつける大きな下落でした。

一体誰がそのような投げ売りを仕掛けたのか、というのが気になるところです。

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シカゴコーン7月限チャート

ファンド筋のロングが減っている

アクティブファンドのロングポジションは縮小に動いています。5月4日時点347,390枚のロングから5月11日302,635枚、5月18日259,407枚、5月25日232,893枚へと三週間連続で減っています。ファンドの利食いが継続している状態と言えます。

ですが、ロングの縮小幅は先週ほどは大きくありません。市場参加者の中には、ファンドの売りは先週よりも大きい5万枚くらい行っているのでは?という予想の声もあったのですが、蓋を開けてみると、ファンドの売りは27千枚です。

一方で、インデックスファンドおよび実需筋で合計45千枚の買い玉が増えています。

ということは、ファンド売り以外にも個人投機をされている方々(いわゆるスモールマネー)の売りが2万枚分出ているということが言えそうです。

 

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コーンポジション持ち高推移

参考までに、先週時点の状況は以下記事にございます。 

sakimono-toushi.hatenablog.jp 

下値抵抗線を抜けて売りが発動?

先週の週頭時点ではテクニカル分析によると6ドル31セントのところに下値抵抗線があると言われていました。この近辺にストップロス注文を入れている投資家は多かった可能性はあります。ここをブレイクした際に、スモールマネーの売り注文も一緒になって約定したという展開かと推察されます。

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シカゴコーン7月限チャート

 大豆相場も下落基調

大豆相場もコーンと同じく先週は下落基調でした。3営業日連続の下落、その後1日横ばいの日を挟んで、さらに下落、という形でしたので、一時の強い展開から一転して、軟調地合となっています。

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シカゴ大豆7月限チャート

ファンドの売りが継続

価格チャートを見て予想された通り、ファンドの売りは順調に継続しました。アクティブファンドは売りを継続しており、ポジションの持ち高は随分減ってきています。現時点で87千枚まで減っています。

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大豆ポジション持ち高推移

大豆については国内需要が減少している

5月17日に発表された圧搾レポートでも確認されていますが、アメリカ国内では大豆油が高騰しすぎた結果、大豆油需要が減退しています。他の油へのシフトなどしており大豆搾油が停滞しています。また季節的にも今後も減退が継続する可能性があると見られており、大豆の上値は重い展開となる可能性はありそうです。

大豆圧搾レポートについては添付記事にまとめております。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

コーン23万枚ロングはいつ売られるのか

大豆におけるファンドロングは随分減ってきています。また実需の動きとしても、大豆油が高すぎることもあり、大豆搾油需要が減っています。すると、大豆への買いも減るという地合になってきています。今の水準が高すぎるというのは納得感あります。

今後、コーンにおけるファンドのロングがどのように処分されるのかは大変気になるところです。5月初旬から比べるとかなり減ってきていますが、それでも23万枚持っています。彼らがどのようにして売ってくるのか、見ものです。

当然相場を冷やさないように慎重に売ろうとするのでしょうが、6月末には作付面積の報告が出ます。そこで作付面積が大きく増えていることが確認されると、どうしても弱い展開になると思われます。つまり6月末までにはポジションをイーブンにしたいと思っているのかな、と推測しますが、どうなるんでしょうね。

6月末にイーブンまで減らそうとするのであれば、毎週4万枚売る必要があります。そんなに売り浴びせてしまうと、随分相場は冷え込んでしまうのではないかという気はします。

あるいは、4月末のように現物引き受けが多発して、相場が爆騰してくることを期待しているのか。

明日はメモリアルデーでシカゴ相場はお休みですが、火曜日にどのような動きで市場が再開されるのか、気になるところです。

 

コーン相場の異変

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こんにちわ。白戸則道です。

本日はコーン相場の異変について状況をアップデートしようと思います。

今週のシカゴコーン相場は大荒れ

火曜日ストップ安、水曜日は突然30セント下落、同日中にすぐ戻す、木曜日はストップ高、とジェットコースターのような目まぐるしい相場付きでした。

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シカゴコーン7月限チャート

大幅下落は中国の買い付けキャンセルの噂

メインイシューは中国のコーン買い付けに関する情報です。

先日中国のコーン爆買いについては以下の記事にまとめましたので参考にされてみてください。

sakimono-toushi.hatenablog.jp

sakimono-toushi.hatenablog.jp 

中国でのインフレ対策での投機マネー引き締めの噂

今週大きく下げた要因の一つ目は、中国側でのインフレ対策として政府当局による投機マネーへの牽制が発表されたことです。中国国内では引き続きコーン価格が高止まりしており、これに一役買っているのが、中国での投機筋のお金であると睨んだようです。政府として、具体的な方法論は提示していませんが、引き締めに入るという話が出ました。

実需筋のキャンセルの噂

次に出てきた話は、中国沿岸部での保税地区でのコーンの取り扱いについて規制をかけるという話です。上述の通り、国内コーンが高いのでコーンを輸入して加工して国内で転売するとかなり儲かります。儲け話に皆さんが飛び付きますから、民間の輸入が4−5百万トンあると言われていますが、この輸入許可を取りやめにするぞ、という話が出たとのことです。これを受けてアメリカ産コーンの買い付けのキャンセルが出ているのではないかという噂が出回りました。これら二つの情報で、火曜、水曜の大幅下落が起きました。

その後反転し、むしろ翌日にはストップ高

市場参加者が中国がキャンセルしているという噂を聞いて、相場はもっと崩れるかもしれない、と思って迎えたアメリカの木曜日の朝に、アメリカ政府から輸出成約高が発表されました。結果を見てみると、全然キャンセルしてないやん!ということが確認され、急にドカンとあげたというのが昨日の動きでした。

コーンの成約は来年度も順調に進んでいる

次年度クロップの買い付け状況

以下のチャートは中国の買い付けの様子を現したチャートです。9月から翌年9月まで、過去7年分の輸出成約高の累積チャートです。紫色は今年度クロップです。中国の輸入買い付けが入ったので過去数年よりも増えていることが見て取れます。

白い線が次クロップの輸出成約高です。過去数年と比べても異常とも言えるペースで成約が進んでいることが見て取れます。5月の終わり時点で昨年度のフルイヤーと同等の成約がすでになされているということになります。

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アメリカのコーン輸出成約数量(次年度クロップ)

今年度クロップの成約状況

今年度の成約についてのチャートです。これを見ても、全然キャンセルしてないやん、ということが見て取れます。

火、水に相場が急に暴落していたのは一体なんだったんだと言いたくなるくらい、結局買ってるやんという話だったわけです。

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アメリカのコーン輸出成約高(今年度クロップ)

今後の相場の展開

すでに相場の動きが全く予想できない展開になっています。というのも、相場を動かしているのが実需の動きを知っている人ではなく、穀物の現物の商売については素人の投機筋が慌てて売ったり買ったりしている状況となっています。

我々商社筋にも、中国のキャンセルの噂は聞こえてきましたが、実際キャンセルがあったとしてもせいぜい100万トンの話であり、むしろ数百万トン単位で買っていると見られるため、買い付け量の方が多いはずなのに、なぜファンドが投げ売りしているのかよくわからんな、と首を傾げていたところでした。

こういう訳のわからん相場の時は、アウトライトでポジションを取るのではなく、スプレッドや、オプションを組み合わせたやり方でマーケットインする方が良さそうです。

とはいえ、オプションの価格自体も原資産価格の変動で大きく動きますし、その動きが読みづらいと考えると、今はちょっとお休みした方が良さそうな地合なのかもしれませんね。

というわけで晩酌ビール買いに行ってきます。皆様良い週末をお過ごしください。ではでは。

 

小麦の種類について

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こんにちわ。白戸則道です。

本日は小麦の種類について解説しようと思います。

 

 

小麦は種類が多い

小麦は世界中で取れる主食たる作物です。乾燥に強いのであちこちで収穫することができますので、広く植っています。そして世界中で植えられるようになる過程で数多くの品種改良が行われた結果、小麦は種類が多いです。そして、種類によって春に種を蒔く小麦もあれば、冬に種を蒔く小麦もあります。

 

作りたいものによって小麦粉も変わる

料理をされる人はご存知かと思いますが、作りたい料理によって適した小麦粉は異なります。ケーキを作りたい時は薄力粉、パンを作りたい時は強力粉、麺を作りたい時は、中力粉です。

イメージを簡単にいうと、ふわふわした食感のもの、例えばパンケーキやスポンジケーキお好み焼きなどを作りたい時は薄力粉を使います。カチッとした食感のもの、例えばフランスパンなどを作りたい時は、強力粉です。麺類や中華饅の饅頭を作りたい時は中力粉というイメージです。

 

主な違いはタンパク含有量

この小麦粉の違いは何かというと、主にタンパク質の量です。厳密にはその性質の違いとか澱粉質の性質の違いとかもあるのですが、主にはタンパク質の量です。タンパク質が多い小麦粉で作ると硬いもの、少ない小麦粉を使うと柔らかくふわふわしたものができます。

 

アメリカには3つの小麦市場がある

お料理教室みたいな話になってきましたが、本題に戻ります。 アメリカで一概に小麦相場といっても、厳密には3つの小麦相場があり、それぞれ取り扱う小麦が異なります。以下にそれぞれの相場について説明します。

シカゴ小麦相場

いわゆる最もメジャーな小麦相場です。取引量が最も多く一般に小麦相場、というとシカゴの小麦相場を指します。取扱う小麦はSoft Red Winter(ソフトレッドウインター)と呼ばれる品種の小麦です。名前の通り、Soft(柔らかい=タンパク質が少ない)、Red(赤みがかった穀粒)、Winter(冬に種蒔きする)小麦です。いわゆるパンケーキなどのタンパク分が少ない小麦粉に多く使われる品種です。生育エリアは中西部からオレゴン州あたりがメインです。

カンザス小麦相場

カンザスにある小麦相場です。 とはいってもすでに場立はなくなっており、全てE-tradeの筈ですが、発祥地がカンザスだったということですね。こちらの市場で取り扱う小麦は、Hard Red Winter種と呼ばれる小麦です。その名の通り、カンザス州界隈が主な生産地です。Hard (硬い=タンパク質が多い)、Red(赤みがかった穀粒の)Winter(冬に種蒔きをする)小麦です。これは中程度のタンパク含有量の小麦粉に多く使われます。麺類によく使われる品種です。麺といっても中華麺系です。うどんは別物です。

余談ですが、日本のうどんはアメリカのHard Red Winter小麦ではなく、オーストラリアの小麦を使います。香川県讃岐うどんは国産小麦じゃないの?と思われるかもしれませんが、大層はオーストラリアから輸入した小麦で作られます。もちろん国産小麦を使用している小麦粉で打っているうどんもありますが。このうどん用小麦は、数十年前に香川県とオーストラリア政府が共同でうどんに適した小麦を品種改良して作ったものですので、乾燥して作物があまり育たないオーストラリア政府が安定的に売れる小麦を作りたいという願いで開発したものだそうです。小麦って奥が深いですね。

ミネアポリス小麦相場

最後はミネアポリス小麦相場です。ミネアポリスアメリカの北部、カナダとの国境付近にある街です。この市場で取引される小麦は、Hard Red Springと呼ばれる品種の小麦です。Hard(硬い=タンパク質の多い)、Red(赤みがかった穀粒の)、Spring(春に種蒔きをする)小麦です。この小麦はタンパク含有量が多い小麦粉が作れますので、パンに適した小麦です。

ミネアポリス相場で取引される小麦は春に種蒔きをして秋に収穫する小麦です。つまり、コーンや大豆と同じ時期に植えられるものです。上で紹介したシカゴ小麦やカンザス小麦は冬に蒔いて、夏前に収穫する小麦ですので、時期がズレるものです。そして北米でも比較的温暖なエリアには、大豆やコーンが主に植えられれます。単位面積あたりの儲けが大きいためです。なので、春小麦を植える地域というのは、大豆やコーンの作付けには適さないようなアメリカ北部やカナダ南部のエリアになります。

 

小麦相場に影響を与えるイベント

小麦の作柄に影響を与える要素は大きく分けて二つあります。旱魃と降雨です。

まず、旱魃ですが、小麦は乾燥には強いのですが、やはり農産物ですので雨が全然降らないと穀粒の育ちが悪くなってしまいますので、生産量が落ちてしまいます。

そして降雨ですが、これは生育期の降雨は問題ないのですが、穂が出て、実がついた状態、つまり収穫の間際に雨に当たると、小麦のタンパク分が流れ落ちるようです。私も詳しいメカニズムは知らないのですが、どういうわけか収穫前に大雨が降ってしまうと、小麦のタンパク分が減ってしまい、食用の小麦として使用に適さなくなってしまい、結果これらは餌用の小麦になるということがあります。

 

春小麦と冬小麦では季節要因が異なる

上で述べたように、北米の小麦と言っても、植えられているエリアも異なれば、生育する時期も異なります。例えば、今の時期であれば、アメリカ北部地域は春小麦の作付の時期ですが、アメリカの南部エリアでは、冬小麦の収穫間際という具合です。

すると、アメリカで雨が降りました、というニュースだけでは、どのエリアのどの小麦に降っている小麦なのかがわからないので、シカゴ小麦、カンザス小麦、ミネアポリス小麦のどれに影響するニュースなのかは判別できません。収穫前の冬小麦がダメになった結果、シカゴ小麦やカンザス小麦が高騰するかもしれませんし、春小麦の作付時期の恵の雨となってミネアポリス小麦には弱い材料となる可能性もあります。

いやはや。奥が深いですね。小麦。。

 

冬小麦と春小麦のスプレッドは面白い

季節要因として、時期的に冬小麦は下落しやすく、春小麦は上昇しやすい、という時期があります。小麦相場全体の動きは、コーンや大豆の要因にも左右されますが、春小麦と冬小麦の値差を取引する(=スプレッド)トレードは毎年の再現性が得やすく、面白いストラテジーです。

別の機会に使えるストラテジーを紹介して行きたいと思いますが、本日はこのあたりで終えたいと思います。

ではでは。

 

アメリカ作付進捗 2021/5/23

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こんにちわ。白戸則道です。

アメリカの作付進捗のアップデートです。

 

 

コーン90%完了

赤い実線”Planted”(=作付済)が今年の作付進捗です。すでに90%の作付が完了しています。2016-2020年の平均では同時期80%程度です。日数に換算して10日程度早い進捗です。また緑色の”Emerged"(=発芽済)のラインを見るとすでに60%を超えており、こちらも順調に進んでいることが見て取れます。

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コーン作付進捗

大豆は75%作付完了

大豆もコーン同様に順調です。75%進捗し、過去5年平均54%に対して大幅に前倒しして進捗しています。発芽も順調です。先週は温暖な気候と降雨に恵まれたこともあり、発芽も進捗しました。前週は20%の発芽率でしたが、今週は40%にジャンプアップしています。過去5年平均の25%と比較しても順調さが窺えます。

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大豆作付進捗

小麦の作柄はよろしくはない

冬小麦は、秋に作付をして、越冬して翌年の夏に収穫します。今、植わっている冬小麦は、昨年の10月頃に作付をして冬を超えてきた小麦たちです。

アメリカ農務省は、春に入ってから作柄の状況を報告しています。畑の状況を5段階で評価します。上からExcellent, Good, Fair, Poor, Very Poor。その中でGood + Excelletnとランク付された畑の割合が目安としてニュースになります。GEレシオという呼び方で言われていますが、このGEレシオが作柄の目安となります。

以下チャートは過去2017年から2020年の作柄の推移と2021年の状況を並べたものですが、現時点の冬小麦の状況は、GEレシオは50%を割っており、良い状況とは言いづらい数字です。今後の降雨である程度持ち直してくる可能性はあるとは思いますが、昨年並に落ち着くか、あるいは今後の天候次第では、もう少し悪くなってくる可能性もありそうです。

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冬小麦作柄状況

まとめ

先週は週末を含めて良好な天候であったようで、作付も順調に進み、その後の降雨もあったことで、大豆コーンの発芽が順調に進んでいるようです。大豆・コーン相場もこの良好な状況を好気して下げムードで展開しました。しばらくは天候懸念材料が出ない限りはこの地合いは続きそうです。さらに言えば、ファンド勢は大豆・コーンともにロングを抱えています。これもどこかで売られる玉となりますので、この観点でも下げの可能性がありそうに思います。

一方で小麦については、先週実施されたカンザス州での冬小麦の収穫前の調査では、なかなかいいね、というレポートが出ていましたし、元々小麦は期末在庫がそれほどタイトではないので、天候の悪化で急騰するとは考えづらいです。ファンド勢の様子を見ると現時点ではほぼEVEN程度ではないかと予想されています。現時点で冬小麦の作柄があまり芳しくはない、という状況に、今後天候が悪化に傾くなどということが重なれば、ファンドがロングを建て始めることもあるかもしれませんね。

 

 

シカゴ大豆相場近況 2021/05/24

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こんばんわ。白戸則道です。

シカゴ市場の大豆相場について、現時点での話題を纏めたいと思います。

 

シカゴ大豆は下げムード

シカゴ相場は先週の火曜日以降、4営業日連続で下落中です。一時のアゲアゲの雰囲気から随分とトーンダウンしています。今後の展開としてこの弱い状態が継続されるのかを検討したいと思います。

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シカゴ大豆7月限チャート

アメリカ国内での圧搾需要減退

特に先週の下落については、先週月曜日に発表されたNOPA圧搾レポートの内容が効いていると思います。NOPA(National Oilseed Processors Association,全米油糧種子加工業社組合)が、月の中頃に前月の圧搾量の実績を報告しています。

今月は5月17日(月)にこれが発表されたのですが、内容を見ると、事前予想をはるかに下回る内容でした。今月は5月17日に発表となりましたが、事前予想を上回る大幅な減少幅でした。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

4月の圧搾量は1億6,030万ブッシェルの圧搾であったとの報告でした。これは、アナリストの事前予想平均値を800万ブッシェル下回る弱い内容で、今年度の圧搾量が前年同時期の量を約1,300万ブッシェル下回る数字でした。今後もこのペースが続くのであれば、通年での大豆圧搾量は、現時点のアメリカ農務省の予想値よりも大幅に減少する可能性があります。現時点でアメリカ農務省は2020/21年の通年の圧搾量として、22億500万ブッシェルとしていますが将来のレポートで低下する可能性が高くなったと言えそうです。

NOPAメンバーは米国の圧搾砕量の約95%を占めており、これはNOPA非加盟の業者も含めると、業界全体で4月の圧搾量が1億7,050万ブッシェルであることを意味します。これを日割り換算すると1日あたり569万ブッシェルの圧搾であると言うことになります。を反映しています。これは、3月の推定レートを1日あたり387,000ブッシェル下回る水準で、11月に記録した今年度のピークを1日あたり683,000ブッシェル下回っています。

 

なぜアメリ国内需要は減退しているのか?

国内での大豆油価格が高すぎる、ということが主要因かと思います。油を使う業者の皆様が高い大豆油を回避し、他のパーム油などにシフトしているのではないかと思われます。

また、季節的に5月以降は需要はそれほど盛り上がらない時期に入ってきます。今後も継続的に需要が停滞する可能性はありそうです。

 

大豆作付進捗は過去10年で最速ペース

需要が停滞している一方で、作付進捗は順調です。先週月曜日に発表された数値ですが、5月16日時点で61%が完了しています。例年、同時期は37%程度の進捗であるところですが、約10日程度前倒して進捗している状況です。

過去に作付進捗が早かった年度の同時期の比較を見ると、2000年(もはや20年前の話ですのであまり参考にならないかもしれませんが)の72%、2004年は65%、2012年の76%です。

データを調べてみましたが、これらの作付が早い年が必ずしも豊作になるとは限らないようです。特に2012年は大凶作であったようです。

あくまでも生産量は今後の生育期の天候次第と言わざるを得ないようです。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

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大豆作付進捗チャート

まとめ 

現在相場で見えている材料からすると、下がる方向に動く材料ばかりが目に付く状況です。

  • 国内需要が減退
  • 季節的にも今後さらに減少する可能性あり
  • 次クロップ生産量はまだ見えないが作付は順調
  • 南米の収穫は順調で生産量の減少の報告は聞こえてこな

このような状況ですので天候懸念などの新規材料が見えてくるまではしばらく下げムードが続くように思います。ただし、期末在庫は2.6%しかない、という点は注意が必要かと思います。

もし天候懸念が出てくると、再度タイト感が意識されて相場が急に持ち上がるという事態は想定できそうです。 

個人的には、値動きが荒い相場は危なっかしいので、次クロップはある程度の豊作になって相場が落ち着いてくれることを希望しています。今後のお天気が気になりますね。

ではまた。

シカゴコーン相場近況 2021/05/21

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こんにちわ。白戸則道です。

先週のシカゴ市場は上昇基調となりましたが、足元で見えている材料について整理したいと思います。

シカゴコーン市場は先週は上昇基調

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シカゴコーン7月限チャート

5/10,11あたりでは7ドル30セントをつけていたものが、5/12のUSDAの発表を受けてから急落しました。5/13,14にも続落し、3営業日で80セント値を崩すという猛烈な下げとなりました。その後、5/17-5/21の間の5営業日を終えて、シカゴ7月限は6ドル33セントをボトムに反発したような形となっています。すると、今後の展開として引き続き上げの展開が続くのかという気配もしますが、需給材料を見直してみましょう。

 

ブラジルの二期作コーンの減産

ブラジルでの旱魃によるコーンの減産は確定的な状況です。過去3年ぶりに年間生産量が1億トンを下回ると見られており、むしろ90百万トンも怪しいという声も出ています。

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ブラジルコーン生産量予想

Agro Consult社は二期作コーンの生産量見通しを15%引き下げ、通年での生産量見通しとして91百万トンに下方修正しています。USDAは102百万トンとしていますが、その他の生産量見通しは、95−96百万トンとなっております。今後その他の機関の発表も出てくる筈ですが、どの程度の落ち着いてくるのか、というのが市場参加者の興味となりそうです。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

ブラジルの減産11百万トンをウクライナアメリカでカバー

仮にブラジルの生産量が91百万トンに落ち着くと仮定すると、現状のUSDAの見込みである102百万トンから11百万トン減る計算になります。

一方で来年度も中国の輸入は今年度と同じ程度の輸入量が継続しそうです。その他の需要国の需要は安定しているので大きな変動はありません。

 

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とすると、11百万トン凹んだものをどこかの国でカバーする必要がありそうです。幸いにして、ウクライナと米国が現状は順調です。ともに作付が順調に進んでいますし、天候も悪くないです。 

ウクライナは7百万トン増産期待

ウクライナは今年度30百万トンに対して、来年度は37百万トンと、7百万トンの増加を見込んでいます。 

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アメリカは20百万トン増

アメリカも、4月のコーン相場の高騰をみて、農家の作付意欲は高まっていますので、作付面積が大幅に増加する見通しです。さらに、作付進捗も順調ですでに80%以上作付が終了しています。過去10年で一番進捗が早いです。

今年度アメリカのコーン生産量は360百万トンでしたが、来年度クロップをアメリカ農務省は380百万トンと予想しています。

アメリカは46百万トン増の可能性もあり

しかし、これはもっと増える可能性ありと指摘されています。以下記事にも纏めましたが、IHS社はさらに増えると見ており、生産量は406百万トンに達する可能性ありとしています。前年度対比で、46百万トンの増加です。

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現時点の予想では問題なくカバーできるが・・・

ウクライナ(+7百万トン)、アメリカ(+20百万トン)があるので、ブラジル(ー11百万トン)でも十分カバーできるね、という話になります。そして、ウクライナアメリカともに作付がほぼ終了していますので、作付面積が不足したという心配はあまりなさそうです。

しかしながら、まだまだ安心できる状況ではなさそうです。

アメリカのエタノール生産は好調を維持

アメリカではコロナワクチンの接種が順調に進み、経済が回復してきています。ワクチン接種が進むと人はお出かけしますので、ガソリン需要が増えます。ガソリン需要が伸びに合わせてバイオ燃料であるエタノールの需要も伸びています。実際先週発表されたエタノール生産量の統計を見ると、生産量はコロナ前の水準と同等になっていますが、在庫は史上最低レベルにまで落ちています。つまり生産量を上回るだけの需要がきている、ということですので、アメリカ国内のエタノール需要が強いことが見えます。

 

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生産量の計算あってる?

生産量の計算は、収穫面積 x 面積あたりの収穫量見込みで計算します。アメリカ農務省の計算を見ると、1エーカーあたり179.5ブッシェルで計算しています。

過去の史上最高は1エーカーあたり176.6ブッシェル

過去の最高値を見ると、17/18年度で176.6ブッシェルという水準は実現したことがあります。その後数年で農業技術も進歩しているとはいえ、本当にこれだけの面積で179.5ブッシェルという史上最高値を2%程度更新するという設定が現実的なのか?というのは要注意です。

176.6ブッシェルで計算すると、生産量は374百万トン

374百万トンの生産量は、今年度対比+14百万トンです。ウクライナの+7百万トンと合わせると、+21百万トンですので、ブラジルがー11百万トンであったとしても十分カバーできると言えそうです。

生産量360百万トンになるのは、169.7

今年と同等の生産量になったとなれば、ブラジルの減産をカバーすることは難しくなりそうです。このケースを想定すると、1エーカーあたり169.7ブッシェルまで落ちると、生産量は360 百万トン程度と計算されますので、この水準まで落ちるとちょっと危ないです。

直近であれば、15/16年度が168.4, 19/20年度が167.5ですので、過去5年のうち2年は170割れであったということになります。5年で2回ってことは40%の確率で170割れです。それなりの確率なような気もしますよね。。。

兎にも角にもアメリカの単収次第 

直近での大きなサプライズはブラジルの減産でしたがすでに相場に織り込まれている言えそうです。そして安心材料として、アメリカの作付が10日程度早く進捗し、大きなトラブルなくほぼ終了したということです。

しかしながら、結局のところ生育期の天候次第で、どちらにも転び得るというのが現時点で言えることです。

このまま順調に生育してくれれば、相場はまた四ドル割れまで戻ってくることもあるかもしれませんし、トラブルが出てくると急にタイト感が懸念されて再度七ドルを超える水準まで上がってくる可能性も否定できないというような状況です。

お天気相場の時期に突入ですね。