商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

アメリカ産コーン単収の考察

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こんばんわ。白戸則道です。

昨日はアメリカのメモリアルデーでシカゴはお休みでした。この土日月の三連休で作付もさらに進んだことでしょう。いよいよ、作柄予測が市場参加者の主な懸念事項になってくる時期です。本日はコーンの単収予測について考察します。

 

単収て何?

コーンに限らず農産物の生産量予想をする際には、二つのパラメーターで計算します。

  • 収穫面積
  • 単位面積あたりの収穫量(=単収)

収穫面積は作付面積をベースに算出

毎年一定程度は生育不良で収穫せずにそのまま放置される、あるいは牧草用に使用される畑が出てきますので、これを係数をかけて算出するということですね。ですが、基本的には作付が完了したらほとんどの畑は収穫されることになりますので、作付が順調に進めば市場関係者の興味の対象は単収の予測に移ります。

単収予想は難しい

当たり前ですが、植ったばかりの畑の作物を見ても3−4ヶ月先の生育状況を精緻に予想することは不可能です。どれだけ雨が降るかもわかりません。なので、アメリカ農務省もある程度はヤマカンで数字を作っています。 

アメリカ農務省の5月の発表値は史上最高

ヤマカンの数字ではあるのですが、市場参加者からすれば一応その数字をもとに取れ高を見積もって先物契約を取引することにせざるをえません。

毎年5月に同年の生産量予想が初公開されますが、今年は史上最高の単収となる1エーカーあたり179.5ブッシェルをもとに計算しています。5月のアメリカ農務省レポートの内容については以下記事を参考にされてください。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

傾向単収という考え方

過去の単収の記録をもとに近似線を引いてみるという考え方が出来ます。以下は1988年を開始年として、2020年までの記録をもとに直線近似の線を引いてみます。これを傾向単収と呼びます。

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コーン単収(1988年から2020年)

中学生の頃に習った一次関数の式ですね。xが1増えればyは2.1282増えるという式です。つまり一年ごとに単収が2.1282ブッシェル増えるという式です。これに当てはめて計算すると、2021年度は178.4ブッシェル/エーカーとなります。

アメリカ農務省の計算はもう少しいろんなパラメーターの調整をしていたりしますし、またいつからいつで近似直線を引くかにもよるので一概には言えませんが、現時点の179.5ブッシェルというのはそれほど無茶苦茶な数字というわけではないと言えます。

 

傾向単収からの乖離

過去の実績を見て傾向単収と実績値の乖離幅の分布を見てみると、過去33年で、−36.2から18.1の範囲となっています。これを度数分布で示すと以下のチャートとなります。

過去33年のうちの19年は−2.4から+7.9の範囲に収まっています。33年のうちの19年ですから、58%相当です。半分以上はこの範囲に収まるということですね。

今年の傾向単収の値178.4ブッシェル/エーカーをベースに考えると、実績として58%の確率で176から186.3という範囲に収まると言えます。

 

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過去33年の単収ズレ度数分布

 

単収176から186.3でシミュレーション

単収が176から186.3に収まるとした場合にどの程度の期末在庫率になるのかをシミュレーションすると以下の計算になります。アメリカ農務省の5月発表値をベースに単収だけを変更した形です。実際は価格が変動するので需要も相応に変わるはずですが、簡単のために単収だけを変更しています。

単収176であれば、期末在庫率は8.22%、単収186.3であれば期末在庫率は14.04%となります。

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アメリカコーン需給バランス表

期末在庫率が14%ならばコーンは三ドル台の筈

期末在庫率とシカゴコーンの関係をプロットしたチャートからみると期末在庫率14%であればコーンは四ドルは超えず三ドル台で推移する可能性があります。

そして期末在庫率が8%超えであればこれも5ドル半ば程度が妥当な水準ということになりそうです。

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コーン期末在庫率と価格の関係

 

今の価格は高すぎるのか

現在のシカゴコーンの水準は足元は6ドル50セントを超えていますが、新穀年度については5ドル70セント程度です。期末在庫率の計算からすると少し高いなというのが正直なところかと思います。

投機筋のロングが入っていることで、値位置が切り上がっているのだと解釈することもできるのかもしれません。そして投機筋はどこかのタイミングでは売り外しに来ますので、そのタイミングではあるべき値位置に戻ってくるということなのかもしれません。

輸出需要の見通しは要注意

一方で少し要注意なのは、アメリカ農務省の輸出需要の見立てが甘い、という可能性はあります。これがもっと上方修正されると、期末在庫の水準も変わってきますので、これはもう少し情勢を見ながら検討する余地はありそうです。

輸出成約は史上最高のペースで進んでいます。今後さらに買い付けが入ってくる可能性もありそうです。今年のアメリカ産コーンの買い付けペースについては以下記事にまとめておりますので参考にしてみてください。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

ではでは。今週も一週間がんばりましょう。