商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

アメリカ大豆コーン作付面積の見通し

こんにちわ。白戸則道です。

今年度はシカゴ穀物相場が2013年以来の高値圏にありますが、今後下がる可能性はどの程度あるのか、作付面積の見通しについて考察します。

生産量予想のベンチマークアメリカ農務省レポート

先週水曜日にUSDA(アメリカ農務省)の需給予想が発表されました。このUSDAの発表は月に一度発表されるものです。そもそもアメリカ農務省レポートとはなんぞやという話については以下記事をご参照ください。

sakimono-toushi.hatenablog.jp

 

アメリカ農務省の生産量予想について

毎年5月から次年度クロップ(収穫時期は同年の秋頃)の需給バランスが発表されます。特に大豆、コーンは期末在庫率がタイトな状況ですので、次年度クロップの生産量は今後の相場動向に大きな影響をもたらす要因ですので重要情報です。

そしてアメリカ農務省レポートにおいては、生産量予想はそれほど頻繁には更新されません。例年1-3月に農家にアンケート調査を実施し、作付意向面積を調べます。そして3月末日に作付意向面積として発表します。先週5/12に発表された内容も、3月末日の作付意向面積から変えていません。今後、アメリカ農務省は6月末日に最終的な作付面積を公表し、それがファイナルとなります。

農家は相場を見ながら調整する

アメリカ農務省は3月に発表した数字から6月末の発表まで、作付面積を据え置くわけですが、実態は異なります。大豆・コーンの作付作業は、3-5月の間に実施されていくわけですが、農家も相場動向をみながら調整します。「この区画は今年は休耕地にしようと思っていたが、相場が上がるならば植えよう」「大豆を植えようと思っていたが、コーンの方が有利なのでコーンに変えよう」という具合です。

なので、アメリカ農務省の数字をそのまま信用していいわけではなく、注意が必要です。

 

民間予想ではコーン大幅増

いくつかの民間調査会社が独自に需給バランスを予想し公表しています。IHS Vantage社という民間調査会社が先週金曜日に独自予想を更新しました。以下表に、先週のアメリカ農務省レポートの数字と彼らの予想値を比較してみました。

コーン作付面積は5.7百万エーカー増、期末在庫12.7%

USDA(アメリカ農務省)の5月発表値では91.1百万エーカーで計算されています。しかしながら、IHS社は96.8百万エーカーで計算しています。これにより供給が増え、彼らの予想では期末在庫率は12.71%となっており、USDAの10.21%からさらに改善しています。シカゴコーンの新穀限月とされる12月限はさらに下押しされる可能性はありそうです。

 

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米国コーン需給バランス表

期末在庫が12.7%ならばコーン価格は4ドル近辺

期末在庫率と年度平均価格レベルを散布図にプロットすると以下の図となります。この中でコーンの期末在庫率を12.7%相当にすると以下の通りとなります。コーンの価格レベルは4ドル近辺に戻る可能性はあります。

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期末在庫率とシカゴコーン価格

単収は180ブッシェル/エーカーで計算

5月14日時点で12月限は5ドル40セントですが、かなり下落の可能性があるという話になりますが、一点注意しないといけないのは、単収が史上最高の数値である180ブッシェル/エーカーで計算しています。現時点の史上最高値は17/18クロップの176.6ブッシェル/エーカーです。180ブッシェル/エーカーは不可能という水準ではないのですが、今後の天候次第では下振れる可能性もゼロではありません。現時点での期末在庫率12.7%という数字は念頭に入れつつもそうなると確信できるものではありません。

大豆は微増

大豆作付面積88.5百万エーカー、期末在庫率2.6%

USDA(アメリカ農務省)の5月発表値は87.6百万エーカーでした。民間予想ではこれよりは若干大きい88.5百万エーカーを見込んでいます。確かに大豆も高値なのですが、生産コストと単収を考えるとコーンを植えた方が有利である、という計算をする農家が多いとみており、コーンほどの大幅な増加は起きない見込みである様子です。

これをベースに生産量を計算すると期末在庫率はUSDAの3.16%よりも改善するはずなのですが、同社は需要がそれほど落ちないとみています。高値を嫌って輸出需要が落ちたとしても、アメリカ国内の大豆油需要はむしろ伸びるという見立てです。これはバイオディーゼル燃料としての大豆油需要の増加を見込んだ計算であるということです。

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米国大豆需給バランス

 

期末在庫率が2.6%ならば大豆価格は14ドル近辺

大豆の期末在庫と年度平均価格をプロットしたチャートを見ると、期末在庫率2.6%の水準であれば、大豆価格は14ドル近辺が妥当な水準と言えそうです。5月14日時点でシカゴ大豆11月限は14ドルですので、現在の価格レベルはある程度生産量増加を織り込んだレベルということなのかもしれません。

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期末在庫率とシカゴ大豆価格

過去に同様の状況となった事例

今年は2月ー3月にコーン価格が持ち上がり、大豆よりもコーンが有利であるという計算が働きました。過去に同様の値動きをした年度である、08/09, 11/12. 19/20年度を比較してみると、大豆の作付面積はコーンの作付面積の82%-89%まで減っています。

現時点のコーン96.8百万エーカー、大豆88.5百万エーカーは91%の比率ですので、過去の事例を考えるともっとコーンが増えて大豆が減るという変動が起きる可能性もありえなくはなさそうです。

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米国大豆コーン作付面積の推移

 

まとめ:コーンは価格緩む可能性有り、大豆はさらに上がるか

コーンは足元の相場の高騰で作付面積を増やす農家がかなりいそうですので、今後生育期の天候状況次第では、相場が緩んでる可能性はありそうです。ただし、生育期に旱魃が来たりするとその限りではありませんので要注意です。

他方、大豆は危険です。コーンに作付面積を取られてしまっている状況ですし、すでに足元の期末在庫がかなりタイトです。来年度の生産量も少なくなる可能性が高くなっています。この状況で生育期に旱魃が来ると史上最高値の更新も十分にあり得るかもしれません。特に米国国内の大豆油需要の今後の見通しは気になるところです。