商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

アメリカ農務省レポートについて

こんにちわ。白戸則道です。

穀物の需給環境を議論する際に、アメリカ農務省レポートの数字を使って話をすることが多いです。このアメリカ農務省レポートとはなんぞや、という点を解説します。

アメリカ農務省による世界農業需給予測

日本語にすると上記になるのですが、World Agricultural Supply and Demand Estimatesという名前のレポートです。略してWASDEレポートです。Googleの検索画面にWASDEと打ち込むと一番最初に出てきます。

↓がそのリンクです。

WASDE Report | USDA

 

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”WASDE”でGoogle検索した結果 

穀物だけではない

WASDEレポートは、アメリカ及び世界の主要農産品の需給バランスを報告するものです。含まれる農産品は、小麦、米、コーン、マイロ、大豆、綿花です。またアメリカにおける、砂糖、食肉、鶏卵、牛乳も含まれます。それぞれについて一年単位で期初在庫、供給量、需要量、期末在庫を示しており、受給バランスを一目瞭然に把握できます。世界の需給バランスの項目では、主要輸出国、主要輸入国についても、期初在庫、供給、需要、期末在庫を計算してくれているので、世界全体での輸出・輸入の量についても見れますし、世界全体での期末在庫も提示されています。

レポートは40頁程度ありますが、ほとんどが数字の羅列です。上記のように複数の農産品のそれぞれについて、需給バランスを示す表が記載されています。

毎月更新版が報告されます

このレポートは毎月更新版が発表されます。毎月10日頃の発行です。2021年の発表予定日は、以下の通りです。発表時間は12:00pm ETつまり、アメリ東部標準時の正午です。日本時間にして、前日の午後10時ということです。このタイミングは世界中のトレーダーたちがWASDEレポートを待ちます。アジアタイムの日本や中国の穀物関係者は、夜に家でパソコンや携帯をいじりながらソワソワして待つという感じです。発表内容によっては相場が大きく動きます。

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2021年WASDE発表スケジュール

レポートに記載されていること

アメリカ農務省の報告ですので全て英語ですが、表のフォーマットなので書いてあることはそれほど難しいものではありません。以下は2021年4月の発表におけるアメリカ産大豆の需給バランス表です。縦に4列並んでいますが、左から18年度の需給確定値、19年度需給、次に20年度の予想値の3月発表値、一番右の列が2020年度の予想値で今回4月に発表された最新の予想値ということです。

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4月アメリカ農務省報告 大豆需給バランス表

 どのように見ればいいのか?

WASDEレポートは、表ばかりです。数字の羅列に意味を見出すには、過去との比較を持ち出す必要があります。

前月との比較

穀物相場に参加している人たちからすれば、毎月のWASDEは前提条件になりますが、その後の1ヶ月の間で生育環境が大きく変わることはあります。上に掲示したWASDEでは3月発表値と4月発表値ではほとんど変化はありませんが、輸出量と国内での搾油量が少し変動しています。

上の例では生産量見込みに変動はありませんが、作付の状況が大きく変わることで大きく変動することもあります。例えば、順調な作付け進捗が報告されることで、皆が楽観的な予想をしていたとしましょう。しかし、4月10日頃の発表から、次の発表の5月10日までの1ヶ月の間に雨が降りすぎて産地で大洪水が起きてしまったらどうなるでしょうか。一度作付けした土地が水に浸かってしまうと、発芽したての作物は根が強く張っていませんので、すぐに流されてしまいますよね。すると、5月の発表値では前月から一転して、作付面積が大きく減る、ということもあり得ます。2019年にはまさに作付け時期の大洪水が起きて、上記のようなことが起きました。

事前予想との比較

前月との比較も重要ですが、事前の市場参加者の予想との比較も重要な意味を持ちます。例えば生育期には、適度な降雨と高熱が作物を育てます。しかし、高温・乾燥状態になってしまうと、花粉がうまく飛ばず、受粉が出来ない、すると子実が出来ない、ということが起きます。

このような時、アメリカにいる人たちは、「今年の夏はあっちーなぁ」と肌で感じています。また最近では農家がSNSで自分の畑の様子の写真を乗せたりもします。(農家からすると作柄悪い→穀物単価上昇は喜ばしい事態ですよね)

すると、前月の発表よりも単位面積あたりの収穫量が減るに違いない、と事前予想を立てるのです。民間の調査会社がアンケート調査を実施するなどします。この事前予想が市場の事前コンセンサスになることがあります。

そうすると、いざ農務省のレポートが発表されてみて、「前月の値よりも悪いけれど、事前予想よりはマシだったね」となると相場が急に下がるという現象も起きます。事前予想がどの程度織り込まれているのか、を見極めるのはかなり難しいのですが、目安となる方法はあります。テクニカル分析の解説の際に、説明します。

まとめ

アメリカ農務省の公表するWASDEは、相場が織り込んでいる前提条件を、毎月更新してくれるものです。例えば、中国の爆買いのニュースを目にした時に、そのニュースはすでに市場に織り込まれいる数量なのか、それを上回る数量なのかによって、相場への影響が全く異なります。穀物関連情報に触れた際に、それって本当なのか?と裏取りするための一つの材料としてWASDEレポートを使うことが出来ます。