商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

大豆の需給環境

こんにちわ。白戸則道です。

本日は大豆の需給環境について説明します。

世界で生産される大豆の量は3.6億トン

大豆の生産量は主要穀物の中では少ないです。コーン11億トン、小麦8億トンに比べると半分以下の3.6億トンです。大豆はタンパク質、油分が豊富ですが、基礎カロリーの源にはなりづらい作物ですので、手っ取り早く大量の人を食わせる作物とはいえません。特に世界的には食用の作物というよりは油を搾る為の作物とみなされています。油糧種子と呼ばれ、英語ではOilseed(オイルシード)というカテゴリに入り、穀物(Grain、グレイン)とは別の把握をされることもあります。油糧種子に入るものとしては、他には菜種やひまわり、ごまなどが該当します。東アジア地域では、豆腐、味噌、納豆など大豆は食用の作物のイメージですが、世界的には菜種やひまわりと同等の扱いをされています。

伯、米、亜で世界の80%を生産

主要産地毎の円グラフを見ると、ブラジル、アメリカ、アルゼンチンで世界の80%を生産していることがわかります。広大な大地で大規模に生産する農業国です。ちなみにブラジルとアルゼンチンは大豆産地としては新興国の部類に入り、産地として拡大したのはこの20年程のことです。それまでは圧倒的にアメリカが産地として存在感がありました。ブラジル、アルゼンチンの産地としての拡大には、日本のJICAのプロジェクトでの土壌改良の努力の歴史があり、日本も大いに貢献した背景があります。

 

f:id:Norimichi_Shirato:20210503092515p:plain

大豆主要生産国(筆者作成)

大豆は半分が貿易される

輸出国の顔ぶれを見ると、生産上位国とほぼ重なります。つまりブラジル、アメリカ、アルゼンチンです。世界で3.6億トン生産される大豆のうちの1.7億トン程度、つまりおよそ半分が輸出に回ります。ブラジルとアメリカではそれほど消費しきれないわけです。特にブラジルにおいては生産量1.3億トンに対して、輸出は85百万トンですから、実に63%が輸出される計算になります。大豆は意外と国際派なんですね。アルゼンチンは生産量が大きい(47百万トン)の割に輸出量は7百万トンと少ないです。これは、大豆を搾油して大豆油にしてから輸出する為です。アルゼンチン産の大豆油は主にヨーロッパに輸出されています。

f:id:Norimichi_Shirato:20210503094042p:plain

大豆輸出国内訳(筆者作成)

大豆輸入国=中国 

輸出される大豆1.7億トンはどこへ向かうのか。世界最大の人口を擁する中国が1億トンを輸入します。世界で貿易される量の60%に達しますから、大豆相場は中国の動向で大きく左右されます。次いでEU、東南アジアと続きます。EUも東南アジアも気候特性として大豆の生育に不向きです。EUは寒すぎる、東南アジアは暑すぎるということです。しかし、EUは健康志向市場として、SOY MILKやTOFUの需要がありますから輸入しています。東南アジアの輸入の大部分はインドネシアが占めます。単一国で2億人の需要で、しかもインドネシアでは臭豆腐を油で揚げたテンペというものをおやつがわりによく食べます。私も食べたことはありますが、油であげているので、豆腐感はないですが、臭豆腐感はなぜか残っているという不思議な食べ物です。

f:id:Norimichi_Shirato:20210503094930p:plain

大豆輸入国内訳(筆者作成)

中国人は1億トンの大豆を何に使うのか

大豆から取れる、大豆油はイメージの通り、中華料理に使います。中華料理って油っこくて美味しい料理が多いですよね。大豆油を搾った後には、そして大豆粕と呼ばれる搾りかすが残ります。搾りかすと侮ってはいけません。大豆は重量のうちの20%が油分ですが残り80%はタンパク質(=プロテイン)です。つまり、大豆粕は良質の植物性タンパク質です。これは家畜の餌に使用されます。中国は鶏肉もさることながら、豚肉をたくさん食べます。これらの豚肉の体を効率よく大きくするために、プロテインとして餌に大豆粕を混合するというわけです。餃子とか酢豚とか、回鍋肉とか、いいすよね。餃子の王将行きたくなってきました。

米国における大豆の需給バランス

さて生産・輸出ともに世界第二位の米国で大豆の需給バランスに目を移しましょう。

生産量=面積x単収

作付面積(エーカー)に1エーカーあたりの生産量(ブッシェル/エーカー)を掛け算することで単年あたりの生産量を計算することができます。つまり2020年度の米国の大豆生産量は

82.3百万エーカー x  50.2(ブッシェル/エーカー) = 4,131ブッシェル

となります。大豆は1トン=36.7454ブッシェルです。紛らわしいことに、コーンや小麦の場合は一トンあたりのブッシェル数は異なります。もともとブッシェルは体積の単位ですから、かさ重量が異なるコーン、大豆、小麦では異なる数字を使う必要があります。商慣習としてそのままブッシェルあたりの価格で話をする慣例が残っているというものです。全くもって紛らわしい限りです。以下表の左側の列は百万ブッシェル表記です。これが米国農務省の発表値ですが、右側に百万トンに換算したものを併記しています。

f:id:Norimichi_Shirato:20210504100431p:plain

アメリカにおける大豆の需給バランス

大豆はほとんどが搾油用途

大豆は収穫量のおよそ半分が輸出に回りますが、国内需要の大部分は搾油用途です。大豆油を取り、さらにいえばアメリカ国内での畜産用飼料用途に大豆粕をとるためです。これは大豆油の相場、大豆粕の相場によって、どちらが主目的になるかは時機によって変わります。

大豆搾油マージン=大豆油価格+大豆粕価格-大豆価格

大豆の加工品である大豆油も大豆粕も商品先物として取引されています。つまり、日々刻々と価格が変動します。大豆を搾油する会社を経営しているつもりで考えてみると、原料である大豆が安ければ、大量に仕入れて油を売りたいところです。しかしながら、副産物である大豆粕が大量にできてしまいます。上でも述べましたが、大豆油分は重量の20%ですから、残りの80%分は大豆粕となります。もし、大豆油相場が高いことに気を良くして大量に搾油すると大豆粕が製造されすぎて、価格が暴落する可能性があります。結果として、大豆油は儲かったが、大豆粕はいい値段で売れず、全体では損を出す、ということもありえます。この考え方を大豆搾油マージンと呼びます。同じく菜種にもこの考え方は適用されます。搾油会社は、原料価格、油、粕の価格を睨みながら搾油計画を決定しています。ダイナミックな商売ですよね。

供給よりも需要が大きい年もある

この点に気づいた人は穀物トレードのセンスありです。上記の表では単年度の需要量と供給量をだけを見ていますが、実態は年度が終わった後には倉庫に余剰が残ります。これを期末在庫と呼びます。豊作の年には、需要量よりも供給量が多区なりますので、これが蓄積されたものと考えてください。しかし不作の年や、輸出需要が大きく増える年もあります。このような時には、この期末在庫から取り崩す形で需要分が賄われます。イメージがつくと思いますが、このような状況の年は相場は上げていく傾向が強くなります。

まとめ

大豆は生産国や需要国が偏っているため、不足時は上がりますし、潤沢であれば下落します。そして、背後に油産業と飼料産業が構えていることもあり、価格が高いです。コーンの倍、小麦の1.5倍くらいします。価格が高い分、同じパーセンテージで動いたとしても、値動きの幅は大きくなります。見るべき産地や需要地が少ないということは、情報を分析して相場の方向を読みやすい商材だと思います。また値動き幅が大きいということは、成功時のリターンも大きくなります。難点は、値動きが大きいということは、突発的な異常で動くときに、ある程度の余剰資金を持って置かないと証拠金が不足する可能性があるということです。大豆相場でポジションを張れるということは、穀物取引の上級者の証といえると思います。