商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

コーンの需給環境

こんにちわ。白戸則道です。

本日はコーンの需給環境について解説しようと思います。世界のコーンの需給及びその中のキープレイヤーである米国の需給バランスについても説明します。

世界で生産されるコーンは11億トン

11億トンと言われてもイメージが湧かないと思いますので、我々日本人に身近なお米の消費量を参考までに記載しますと、日本のお米の消費量は約8百万トン。ちなみに生産量は7.5百万トン。概ね自給出来ているということです。コーン11億トンは、8百万トンの137倍。日本の人口が1.2億人ですから、その137倍の量が取れるとなると、米とコーンの栄養がキロあたりで同等とすれば、

1.2億人 x 137倍 = 165億人

なんと165億人分の基礎カロリーは賄える計算になります。実際は世界の人口は78億人ですから、ずっと少ないです。

食糧危機はウソなのか

人がコーンを食べれば、食糧危機は回避できるということになりますが、コーンはあまり食用穀物としては使用されません。家畜飼料にしたり、コーンシロップに加工したり、バイオエタノールに加工しています。確かに、海外旅行してもあまりコーンは主食としては出てこないです。

コーン生産量上位国

生産量上位国をグラフにしてみました。アメリカと中国で世界の半分を占めます。上位五カ国であるアメリカ、中国、ブラジル、EU、アルゼンチンで75%程度となります。

 

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世界コーン生産量(筆者作成)

コーン貿易量は1.8億トン、日本は16百万トンの輸入大国

次に貿易に回る数量を見てみましょう。世界全体での貿易量は1.8億トンです。生産上位国になを連ねる中国が輸入量世界一位です。人口によるパワーは恐ろしいですね。続いて東南アジア地域が二位です。これは複数国の合算ですので、少しずるいのですが、エリアとして考えると需要が伸びているエリアとは言えます。第三位がメキシコ、ついで日本は第四位です。メキシコはトルティーヤを主食で食べますので納得ですが、日本は主に家畜の餌用途での輸入です。単一国として見ると第三位ですから大したものです。そして日本の主食である米の生産量(8百万トン)の倍のコーンを輸入しているわけです。

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コーン輸入国内訳(筆者作成)

輸出国は農業大国がずらり

輸出国のラインナップは生産上位国が並びます。アメリカ、ブラジル、アルゼンチン、ウクライナで80%を占めます。ウクライナ、ロシアは黒海を通って、北アフリカ地域(特にエジプト)に輸出されるものが多く、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンは主にアジア地域に輸出されるものが多いです。

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コーン輸出国内訳(筆者作成)

アメリカのコーン需給バランス

コーンの取引においては、生産量・輸出量ともにアメリカが世界一であることが確認出来たかと思います。なのでシカゴ穀物相場において、アメリカの生産量及び国内需要がどうなるかは重要なファクターです。基本はそれほど難しくはありません。

世界的にはメートル法が基本ですから、輸出する際にはトン建てで数量を契約しますが、アメリカはメートル法を採用しておらず、国内の需給バランスの話をする際には、面積をエーカーで表し、重さはブッシェルを使用しています。

 

アメリカ国内のコーン需給バランス

以下表はアメリカ国内のコーンの需給バランスを表したものです。上から作付面積、単収(=単位面積あたりの収穫量)が記載されており、これらの掛け算で生産量が計算され、これに輸入を足し合わせるとアメリカ国内に出回る事が可能な供給量の合計が算出できます。また下の段には需要が記載されています。飼料用途、食品用途、エタノール用途の合計で国内需要、これに輸出を加えると、供給量がどこに分配されるのかを把握することが出来るという建てつけです。

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アメリカ国内におけるコーンの需給バランス表(米国農務省発表値を基に筆者作成)

生産量 = 作付け面積 x 単位面積収量

 2020年度でいえば、82.5百万エーカーの面積に対して172ブッシェル/エーカーの単収として、生産量は14,190百万ブッシェルとなります。百万トンに換算すると、360百万トンの生産量となります。

最大需要は飼料、次いでエタノール

アメリカ産コーンの実に80%以上は国内で消費され、輸出に回るのは66百万トンと18%程度です。輸出市場においてはシェア世界一位ですが、それ以上に国内市場が大きいということです。

国内需要の中でも大きいものは飼料用途 144百万トンで輸出を含めた全需要371百万トンのうちの40%近くに上ります。飼料用途に次いで大きいのは、エタノール需要でこれが126百万トンで34%を占めます。エタノールはガソリンに混合して自動車用の燃料油として使用されます。いわゆる再生可能エネルギーと呼ばれるものですが、アメリカ政府の国策として国内需要を創出し、コーン価格を下支えするというアメリカ国内農家向けの支援策という背景が濃いです。農業は天候リスクが大きく難しい事業ですが、極めて重要な産業です。市場任せにしてしまうと、誰もやりたがらない可能性もあるので、農業従事者をサポートする政策は、政治の役割として重要だと思います。

まとめ 

 コーンは世界で11億トン取れますが、貿易に回るのは1.8億トンですので16%程度です。そのうちの約30%を占めるのがアメリカです。一方でアメリカ国内に目を向けると、輸出需要以上に飼料用、エタノール需要が大きいことがわかります。アメリカ国内での景気動向が世界のコーン価格に与える影響は大きいといえます。また世界の需要国側に目を向けると、やはりもう一つの大国中国の存在感は外せません。自国生産も世界二位ながら、さらに世界最大の輸入国です。 アメリカと中国によるトレードウォーにおける交渉過程で、コーンがどのように使われるのか大変興味深いポイントかと思います。今後ニュースを見る際にはこのような視点を持ってみても面白いと思います。