商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

期末在庫率から価格の目安を考える

こんにちわ。白戸則道です。

商品相場は需給バランスで価格が決まるという原則についてもう少し深掘りして、期末在庫率という考え方について解説します。

期末在庫はストックの逼迫感を示す

言葉の意味の通り、期末の在庫量を示すものです。ここでいう”期”というのはクロップ年度と言われるもので、穀物年度とも言います。穀物一年草で、一年に一度しか収穫されませんので、収穫したものを倉庫にストックして一年間使う事になるわけです。お米をイメージしてみましょう。初夏に田植えをし、秋に収穫して米を倉庫に保管し、そのお米で冬を越し、翌年の収穫まで食い繋ぐというのが、日本の弥生時代からの生活スタイルですね。同じように、穀物も収穫のタイミングを穀物年度の開始とし、翌年同時期までを一年度とします。モノによって年度の開始月は異なりますが、主要穀物三商品は以下の通りです。

  • 小麦  6月1日ー5月31日
  • コーン 9月1日ー8月31日
  • 大豆  9月1日ー8月31日

期初在庫+総供給量ー総需要=期末在庫

以下アメリカにおけるコーンの需給バランス表を使用して説明します。期初在庫とは9月1日時点のアメリカ国内での在庫を指します。これに当該年度の供給量を足して、需要を差し引くことで、当該年度末つまり一年後の8月31日時点の在庫を算出できます。これを期末在庫と呼んでいます。そして同じくこれは次年度の期初在庫、つまり9月1日時点の在庫となるわけです。以下表の中の数字を使用して計算すると以下となります。

期初在庫 1,919 + 供給 14,215 - 需要 14,775 =  期末在庫 1,359  

期末在庫 ÷ 総需要 = 期末在庫率   

 期末在庫率は、期末在庫を需要量合計で割算したものです。

期末在庫 1,359 ÷ 需要量合計 14,775 = 0.0919 =  期末在庫率 9.2%

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アメリカにおけるコーンの需給バランス

 期末在庫の逼迫は相場の急騰を招く

収穫直後は在庫はそれなりにありますので、あまり意識されませんが、穀物年度の終わりに近づくにつれていよいよ現物が手当てしづらくなります。まして、穀物は基礎産品ですから幅広く使用されている割に、代替出来るものが限られます。穀物よりも安価に手に入る食糧資源はありません。結果、今欲しい人が、高値をつけることになり、相場が急騰することがあります。

期末在庫率の持つ意味

具体例を設例してみましょう。コーンの期末在庫率が9.2%だった場合、この数字の意味する所を考えてみましょう。期末在庫率は期末在庫を年間需要で割ったものです。ここで、翌年度の需要量が、前年度と同等程度であると仮定します。つまり8月31日時点では翌年度の需要の9.2%をカバー出来る量の在庫が残っているということになります。

年間の需要に大きな波がないと仮定すると、365日の9.2%分ですから33.6日分の需要をカバーできると言えます。つまり9月1日から33日分ですから10月初旬くらいまではもつということです。

 期末在庫率は収穫遅延の許容日数の目安

期末在庫率は収穫遅延の許容日数と言えます。先程の設例では「10月頭まで在庫がもつ」と書きましたが、裏返すと「10月頭までしか保たない」とも言えます。コーンの場合は、例年9月中ばから収穫されますが、もし作付期の長雨で作付が二週間遅延していたとすると、収穫時期も相応に後ろ倒しになります。すると、収穫開始は10月頭頃になってしまいます。もはやギリギリです。なので、期末在庫率がタイトな水準の時には、収穫作業が順調に進んでいるかどうかも、相場を動かす大きな材料になりえます。尚、在庫が潤沢にある時は、このような心配は起きません。もし期末在庫率が20%程度あれば73日分の在庫がありますから、11月中ばまで在庫がもつことになります。

期末在庫率の適正水準 は15%

過去実績から考えると期末在庫率の適正水準は15%というのが、ベンチマークです。これを下回ると、在庫の品薄感が意識され相場が高値圏に行きやすくなります。

期末在庫と価格水準のグラフ

期末在庫率と価格を散布図としてチャートにしたものがあります。これを見ると、現在予想されている期末在庫率であれば、シカゴ相場の値位置が適正かどうかを占うことができます。

コーン

2021年4月にアメリカ農務省が公表した数値に基づく期末在庫率の水準は9.2%ですからこれを前提に考えると、価格レベルは5ドルを少し超える水準となるべきところ。これよりも高い価格であれば上がりすぎとも言えますし、逆に言えばアメリカ農務省の見立てが甘い、と市場参加者が考えているとも言えます。どちらとも言えますし、市場参加者が必ずしも正しいとは限りません。

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コーン期末在庫と価格の関係

大豆

2021年4月にアメリカ農務省公表値に基づく期末在庫率は2.62%という史上最低水準の逼迫度を示しています。チャートとしては価格帯は14ドル程度となるという計算ですが、チャートの端にきていますので、さらに左に動くと価格は大きく上昇しますので、上値の可能性はあります。

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大豆期末在庫と価格の関係

 

小麦

小麦は過去数年は期末在庫として50%近い水準で推移しています。大豆やコーンに比べるとかなりゆとりがある水準と言えます。2021年4月のアメリカ農務省の報告では、期末在庫は49.2%です。過去トレンドからすると5ドル近辺というのが目安となります。しかしながら、通年の需要のうちの半分をカバー出来るだけの在庫があるということになりますから、収穫遅延による影響はあまり受けない水準と言えます。大豆やコーンのように収穫遅延が相場の高騰につながるような状況ではない、と言えます。私の感覚からするとむしろ他商品の相場、大豆、コーン、ミネアポリス小麦などの上昇に、釣られてシカゴ小麦も上がるという構図の方が発生しやすいと思われます。

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小麦期末在庫と価格の関係

まとめ 

需給バランスだけで価格が決まる訳ではないというのが相場の難しいところでもありますが、穀物の需給バランスを理解せずして、トレードポジションを取ることは冒険しすぎだと思います。期末在庫の概念は、穀物の需給逼迫度を表す際に最もよく使われる概念ですので、この意味を理解すれば、需給環境についてのニュースレターなどがグッと理解しやすくなると思います。