商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

穀物相場の需要と供給

こんにちは。白戸則道です。

本日は穀物相場の需要と供給について説明します。

需給バランスこそが商品相場の価格決定要因

商品相場は株式市場や為替などの金融市場とは異なり、現物資産の相場です。つまり実生活に使われる商品の原料となるものの価格です。様々な商品を作る会社が世の中にありますが、それらメーカーの立場に立てば、原料調達コストが上がった分を製品価格に転嫁することになります。例えば、原油が高くなればガソリン価格は上がりますし、大豆価格が下がれば、スーパーに並んでいる食用油油の価格も下がります。商品先物が実際に受け渡しがなされて、消費者が手に取る製品の形になるには時間がかかりますので、価格変動の影響が伝播するのにも時間がかかりますが、商品相場の価格変動は消費者が手に取る製品の価格変動にも明確に影響を与えます。

商品相場の価格変動メカニズム

製品価格が上がれば、消費者は買い控えます。つまり需要が減ります。製品が売れないならば、メーカーも生産調整をして製造を減らさざるを得ません。結果、原料調達も減らします。すると原料相場での買いが減りますので原料価格が下がります。

原料価格がある程度下がると、メーカーは製品価格を下げる事ができます。製品価格が下がれば、製品価格は消費者が買いたくなる水準になり、需要が増えます。結果として、メーカーの調達担当はさらに原料を買い求めますので、相場は上がります。

このように、商品相場は実世界の消費行動とタイムラグを持ちながら、連動して上げ下げを繰り返す代物です。なので、商品相場を見ている人は需給動向を観察しています。

穀物相場における需要と供給

穀物相場に話をフォーカスすると、供給とは一年間に生産される穀物の量、需要とは一年間に消費される穀物の量です。生産は疑問の余地なく、畑からの収穫量を指します。需要は、国内需要と、輸出需要に大別されます。

想像してもらえればわかると思いますが、国内需要が優先です。もし不作の年に、穀物商社が海外に輸出してしまうと、国内での食料不足による暴動が起きる可能性があります。食料不足は命に関わるので深刻です。飢饉の年の反乱で政府が転覆する話は、洋の東西を問わず、よく起こる話です。だって食べられないと飢え死にしますから。

穀物は戦略物資

このような混乱を避けるために、不作の年には政府が輸出量を規制する事があります。2009年にはロシアが小麦の不作を理由に、突然禁輸を発表した事があります。これによって、シカゴ小麦相場が暴騰、3日連続のストップ高を記録したということもありました。ロシア小麦が輸出されない→他の輸出国である米国に買いの需要が入る筈→米国小麦も逼迫する懸念有り→シカゴ小麦で先物を買っておこう、という、風が吹けば桶屋が儲かる的に、ロシアの禁輸がアメリカシカゴの穀物相場の上昇につながるわけです。

直近では、米国と中国のトレードウォーにおいても同様の構図はあります。中国は世界最大の人口を抱える巨大需要国であり、大口需要家です、大豆も小麦もコーンも輸入します。対する米国は農業国で輸出数量も大きいです。米国の制裁措置に対して、中国側は米国の農産品買わないよ、という対抗策を取ることが出来ます。政府間交渉のタイミングになり両者の関係が落ち着くと突然大量の輸出成約が報告され、これを受けてシカゴ相場が反応するというパターンがあります。人の生死に関わる食糧資源は正に戦略物資と言えます。

穀物の需給動向を観察する方法

消費者物価指数の動きを観察するのも一つの手ですが、どうしても物流・製造・消費の結果を見た後の指数になりますので、商品相場の価格動向の数ヶ月から半年程度ズレていると言えます。商品相場での売買をするには、もっとはっきりと商品自体の需給バランスを見る必要があります。

USDAレポート(米国農務省報告)

穀物相場においてはUSDA(米国農務省のレポート)が最も信頼されている数字です。詳細は別の機会に説明しますが、月に一度、米国農務省が米国農産品だけでなく世界の農産品の生産・輸出・輸入・消費量を取りまとめて発表しています。この数字が正しいというよりも、相場の参加者がこれをある程度信頼し、これを前提に動いているということです。

 

米国農務省作柄報告

米国の穀物の生育期である4月から11月にかけて、週に一度作柄が発表されます。農産物ですから、そもそも作付けの時期に雨が降り続けば作付けが出来ませんし、作付けがうまく行ったとしても、その後雨が降らず日照りが続くと生産量は低くなります。このような作付けの状況の実態を米国農務省のスタッフが農家にアンケート調査を実施したり、実地検査をしたりしながら、今年の米国の作柄はこんな感じですよ、と報告してくれます。ご丁寧に前年同期と過去10年平均との比較も並べてくれるので大変わかりやすいレポートです。供給量の見込みがわかるということです。

輸出成約報告

こちらも米国政府が提供するレポートですが、週に一度輸出実績と、まだ輸出されていないけれども既に販売されている数量が報告されます。これを見ることで今年度はどの程度の輸出が確定していて、今後輸出される見込みか、を追う事ができます。つまり輸出需要の数量が見えるということです。 

エタノール製造量レポート、大豆圧搾量レポート

コーンはバイオエタノールの原料です。エタノールはガソリンに混合して自動車の燃料に使用されます。また大豆は日本では味噌や豆腐など身近な食品の原料ですが、世界的には大豆油を絞るための油糧種子という位置付けです。大豆油は食用油として使われるのもそうですが、印刷用インクなど工業用途にも使われます。

コーンであればエタノール製造量、大豆であれば圧搾量レポートが週次での米国国内需要をモニターする材料を与えてくれます。

まとめ

需給バランスを見ることで、相場の価格レベルを考えるということは商品相場を理解する上での重要ポイントです。ここで紹介したレポート類は全て英語ですので少しとっつきにくいかもしれませんが、別記事でそれぞれ読み方を解説しようと思います。