商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

小麦の需給環境

こんにちわ。白戸則道です。

本日は、小麦の需給環境について解説します。

世界の小麦生産量は8億トン

小麦は世界中で生産されます。これは作物が育つ気候環境の許容度が広い為です。簡単にいうと、厳しい気候条件でも育つということです。一般に植物は温暖で湿潤な気候条件の方が育ちやすいのですが、小麦は寒冷で乾燥している気候で育ちます。農業とは土地を活用してそこから収益を引き出すビジネスですから、気候条件の良い土地であれば、お米、コーン、大豆などの単位面積あたりの生産量x売値が最も良い作物が選ばれます。しかし人類は、厳しい気候条件でも育つ強い作物である小麦を見つけ出し、それが世界中に広まったということです。なので、小麦は世界中あちこちで生産されます。大豆やコーンは生産地が北南米に偏っていますが、小麦はヨーロッパから中国、インド、アルゼンチンまでかなり幅広く分布していることが見てとれます。ただし、湿気のあるところはあまり好みませんので、冷涼で乾燥しているエリアが多いです。

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世界の小麦生産量(筆者作成)

輸出国上位は北半球エリアの国家

生産量8億トンのうちの輸出に回る小麦は2億トンです。主要穀物の貿易量を比べると、コーン1.8億トン、大豆1.7億トンなので、小麦が最も貿易されています。輸出上位のラインナップのうちロシア、EUウクライナカザフスタンのユーラシア地域を合算すると約1億トンとなり、輸出の約47%を占めます。ウクライナカザフスタンのエリアはチェルノーゼムと呼ばれる肥沃な黒土が広がるエリアで、世界のパンカゴと呼ばれると、高校の地理の授業で習いましたよね。

ただし、我々が普段国内で食べている小麦製品は、これら欧州エリアではなく、太平洋エリアのアメリカ、カナダ、オーストラリア産の小麦がメインです。

 

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小麦輸出国(筆者作成)

 

輸入国はアフリカや東南アジアがメイン

輸入する国々の上位は北アフリカ、東南アジア、中東諸国などです。冷涼・乾燥とは言いづらい気候ですので、小麦があまり生産されませんので、他から輸入する方が安くつくということですね。そしてこれらの国々は人口増加が続いていることを考えると今後さらに需要は大きくなると予想されます。

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小麦輸入国(筆者作成)

小麦には種類がある

小麦は食用としての使い方が多彩です。パン、麺、ケーキ、饅頭、などなど、様々な地域のそれぞれの食文化でそれぞれの使い方をされます。実は小麦は品種によって、そこから取れる小麦粉の性質が随分異なります。そしてその小麦を使って出来上がる製品も随分変わります。

身近な話で考えると、一概に小麦粉といっても、薄力粉、中力粉、強力粉などありますよね。作りたいものに応じて使い分けをしないといけないんです。パン、ケーキ、お好み焼きで適した小麦粉って違うんです。普段料理する人には当たり前かもしれませんが、独身男性は全く知らない人も多いと思います。

日本の小麦粉製品は超絶美味しい

それぞれの小麦粉も、単一品種の小麦で作っているわけではなく、製粉会社の皆様の日々の研究によって開発されたスペシャブレンド品です。アレとコレをどの比率で混ぜるという単純な話ではなく、どの小麦をどの程度挽くか、というところから細かく設計されているものなんです。海外旅行に出た時に、パンを食べてみてください。小洒落たベーカリーで出来立てのパンを買えばそりゃ美味しいですよ。そうではなく、普通のスーパーに並んでいるパンを買ってみてください。日本の食パンのコスパの高さに驚くと思います。我々が普段お世話になっているパン屋さん、さらにはそこに小麦粉を供給している製粉メーカーさんに感謝です。

 

アメリカにおける小麦需給バランス

小麦の貿易においては、アメリカは輸出量だけを見ればロシア、EUに次いで第三位という地位ですが、シカゴ小麦市場が世界の小麦価格のベンチマークの役割をしているため、アメリカにおける小麦の需給バランスは重要です。アメリカで小麦が逼迫すれば、シカゴ相場が上昇する可能性はあります。

生産量=面積x単収

生産量は、作付面積(百万エーカー)に1エーカーあたりの収穫量(ブッシェル)を掛け算して算出されます。アメリカはメートル法を採用しておらず、国内取引においてブッシェルを使用します。アメリカ農務省の発表数値も輸出取引の数量はトン単位で表示しますが、国内需給バランスにおいては、下表の左列の通りブッシェルを採用しています。小麦は36.744ブッシェルが1トンです。元々ブッシェルは体積の単位なのですが、アメリカ国内の取引の慣例でブッシェルを重量の単位として使用しています。下表右列においては生産量以下の数字を36.744を使用して百万トン単位に換算しています。

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アメリカにおける小麦の需給バランス(筆者作成)

飼料用途もあるが食用用途がほとんど

飼料用と食用で異なる小麦を植えているわけではありません。同じ小麦ですが、食用に適さない、いわゆる格落ち品が飼料用小麦に回るというわけです。どのようなものが格落ちになるか、というと生育期に極端な乾燥状態に置かれて、小麦の穀粒が育たなかったものや、収穫前に雨が降ってしまい、粒が黒ずんだものなどが、格落ち品になります。

そして小麦は、コーンとは異なり燃料用用途には使用されません。やろうと思えばできると思いますが、やはり主食である小麦に手を付けてしまうことは、食糧危機を起こす可能性があるため、ブレーキがあるのだと思われます。

遺伝子組み替え小麦は栽培されていない

直接人の口に入る作物である小麦は、遺伝子組み替え作物は栽培されていません。実験室レベルでの研究はされていますが、商業規模での栽培はされていません。しかし、2013年ー2014年頃に、アメリカの北西部州で遺伝子組み替え小麦が畑で植っていることが発見された事件がありました。当時農水省の方々がアメリカの農務省側と安全性確保のために様々な確認をされていました。結局、人為的に流通したものではなく、突然変異体であったと確認されたのでことなきを得ました。普段は意識されませんが、安全な食品の流通網の整備は、実にありがたいことであると実感しました。

最後に

小麦は、小麦粉になり、麺類に加工されたり、パンになったりと、我々の手元に届くまでに、形が変わりますので、あまり気づかないと思いますが、小麦製品は身の回りにたくさんあります。日本は年間6百万トンを輸入する輸入大国です。そして、その裏には製粉メーカーさんだけではなく、その物流に携わる人々の日々の業務の積み重ねがあります。6百万トン規模の小麦を日本に安定的に輸入する際には、日本だけではなく、アメリカ、カナダ、オーストラリアの港や内陸部で品質や安全性を検査する方々がいます。それらの全ての皆様のおかげで我々の食生活が実現しています。一見当たり前に見えることは、実は有難いことであると、理解することは大切なことだと思います。そしてちょっぴりではありますが、我々のような商社マンが、身を粉にして働いた部分も、小麦粉の中には含まれていることも、この機会に頭の片隅において頂けると有り難く存じます。