商品先物投資のススメ

大手商社穀物担当が副業としての”商品先物投資”を解説します

エタノール生産量の動向

こんにちわ。白戸則道です。

本日はアメリカのコーン需要の大きなポーションを占めるエタノールについて解説します。

バイオエタノールアメリカの国内需要の4割を占める

日本では販売されていませんが、アメリカではガソリンスタンドにいくとE10と書かれたガソリンが売っています。これはエタノールを10%混合したガソリンです。15年ほど前からアメリカは市販ガソリンのうち一定割合にエタノールを混合することを義務として定めています。もちろんハイオクガソリンなど通常のガソリンも販売されていますが、ガソリン販売業者は販売総量に対して、一定の再生可能燃料を使用する義務を課されているものです。

アメリカ国内におけるコーンの需要割合については以下記事にまとめておりますので参考にされてみてください。

 

sakimono-toushi.hatenablog.jp

混合比率を増やす計画は頓挫した

持続可能な社会をつくるという大義もあり、且つ巨大需要を創出することで国内とうもろこし価格を維持しやすくなり(=農家の支援にもなる)、国家のエネルギー安全保障にも役立つという一石三鳥な話で巣ので、再生可能燃料の混合割合をもっと増やす計画もありました。E15、さらにはE85まで。しかしながら、現時点ではこの計画は頓挫しています。技術的な問題として、パイプラインでエタノール混合率の高いガソリンを輸送するとパイプラインに穴が開くということが起きるそうです。なので、政府としてはコーンの混合比率を高めようと画策していたものの、技術的な限界でなかなか増えない、という状況になっています。

2019/20年度はコロナがやってきた

 以下グラフからも一目瞭然ですが、2019/20年度(以下グラフの黄緑色ライン)はエタノール生産量が大幅に落ち込みました。コロナによりアメリカでも至るところで外出規制が敷かれました。結果として、人の移動が減りますから、車の移動も減ったためガソリン需要が落ち込み、混合物であるエタノールの需要も大きく落ちたという状況でした。

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アメリカ週間エタノール生産量(IHS Markit作成)

直近のエタノール生産は好調に推移

水色のラインが今年度の実績です。現在アメリカではワクチン接種者が増えてきており、夏の行楽シーズンにむけて外出需要の増加、ガソリン需要増、エタノール生産量の増加、が期待されるところです。今後の予想ラインを黒ラインで示していますが、じわじわと増えていくという期待的な見通しです。また直近の週のエタノール生産量を見ても、一昨年の水準から比べると5%減程度にまで戻ってきていることが見てとれます。短期的には相場を上げる要因と言えそうです。

尚、本筋とはそれますが、今年の2月末に大きく落ち込んでいるのは、突然の寒波でエタノール製造工場の多くが停止したという異常気象によるものです。

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アメリカ週間エタノール生産量(IHS Markit作成)

エタノール在庫はかなり低い水準

生産量は戻ってきていますが、それ以上に需要の回復速度が早いこともあり、じわじわとエタノールの在庫は減ってきています。エタノールプラントが稼働ペースを上げるとアメリカ国内での現物コーンが逼迫する可能性はありそうです。

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エタノール在庫数量(IHS Markit社作成)

将来的には頭打ちの見通し

コロナによる大幅減からはかなり戻ってきたのですが、将来的にはアメリカでのエタノール需要は大きくは増えないと見込まれてます。理由は、ガソリン需要自体の減速見込です。

この2-3年でSDGsという言葉がかなり市民権を得てきています。大量消費万歳のアメリカ社会もこの流れには逆らえず、ガソリン車の販売は減少しクリーンエネルギーの自動車に代替される流れは強まる見通しです。そして、上述の通りエタノールの混合比率は大幅に高めることは現時点では難しいという見通しですので、じわじわと混合比率を高めたたとしても、ガソリン需要の停滞により、相殺され現在の水準で頭打ちとなるのではないか、とみられています。

今年2月に発表されたアメリカ農務省による長期需要予測レポートにもそのように記載されております。以下はその長期需要予測からのチャートの引用です。飼料需要(黒ライン)および輸出需要(赤ライン)は堅調に伸びるという予想ですが、エタノール使用量(青の点線)は増えずに一定のラインで変わらないという見通しです。

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アメリカコーン需要動向長期見通し

まとめ

エタノールの生産量は20年前はほとんどゼロだったものが、急激に伸びて2010年頃には現在の水準になるまで大きく伸びました。10年もあれば需給構成はこれほどまでにも変わるのかと考えると、人の営みが短期間で変わるものだなと感じさせられます。

現在SDGsというキャッチコピーを世界中の子供達に教育していますから、今後10年もかからずに数年で世の中はさらに大きく変えることができるのかもしれません。